最近よく耳にする「ナチュラルワイン」という言葉。けれど、その定義は意外にも曖昧であることをご存知でしょうか?
基本は「人の関与をできる限り少なくしたブドウ栽培とワイン造り」ですが、一般的には以下のような特徴を持つワインを指します。
栽培:有機農法(オーガニック)またはビオディナミ農法による栽培。
酵母:ブドウや畑、セラー由来の「天然酵母(野生酵母)」による発酵。
添加物:酸化防止剤(SO₂)は無添加、または必要最小限のみ使用。
仕上げ:本来の風味を残すため、清澄剤やフィルター濾過も行わない。
こうした造りを目指すワイン全般を指しますが、実は世界共通の厳格な法的定義は存在しません。
そのため、人によって「どこまでがナチュラルか」という捉え方は異なっています。
このような背景から、「オーガニック」「ビオディナミ」「ナチュラルワイン」は混同されがちですが、それぞれ以下のような違いがあります。
■ オーガニック(仏語:ビオロジック)
化学合成の農薬や肥料、除草剤を使用しない有機栽培を指します。
・EU共通ロゴ「ユーロリーフ」の信頼
EU委員会が定めた厳しい基準(有機栽培と有機醸造)を満たしたものだけが「Organic Wine(有機ワイン)」と表示できます。この表示が認められたワインには、共通ロゴである「ユーロリーフ」と、認証機関のコード番号、原産地の併記が義務付けられています。
・認証機関と共通ルール
「エコセール」をはじめとする第三者機関はすべてこのEU共通ルールに基づいて審査を行っています。醸造時の酸化防止剤(SO₂)の使用量にも、通常のワインより低い制限が設けられています。
■ ビオディナミ
オーガニック栽培をベースに、哲学者ルドルフ・シュタイナーの思想に基づいた農法です。月や惑星のリズムなど自然のサイクルを重視しながら栽培を行う点が特徴で、「デメテール」などの厳格な認証機関があります。
■ ナチュラルワイン(仏語:ヴァン・ナチュール)
オーガニックやビオディナミで栽培されたブドウを使用し(認証の有無は問わない)、醸造の段階でも「極力、人の手を加えない」自然な造りを目指すワインを指します。
前述の通り、世界共通の厳格な定義はありませんが、近年ではフランスで「Vin Méthode Nature(ヴァン・メトード・ナチュール)」と呼ばれる、より透明性の高い認証制度も登場しています。
| カテゴリ | オーガニック(仏語:ビオロジック) | ビオディナミ | ナチュラルワイン |
|---|---|---|---|
| 栽培の定義 | 有機栽培。化学肥料や化学合成農薬の不使用(ボルドー液、あるいは天然原料によるものは使用可)。エコセール等の認証。 | シュタイナー思想。天体の運行に則り、プレパラシオン(調合物)を用いて畑の生命力を高める。デメテール等の認証。 | 有機栽培orビオディナミ (認証の有無は問わない) |
| 醸造の定義 | 有機認証規定内。認可された培養酵母はOK。SO2は通常より少ないが、安定のための添加を許容。 | 天然酵母。SO2規定はビオロジックより厳格。補糖・補酸・加熱処理等の加工禁止。 | 天然酵母を使用。SO2は無添加orごく少量。無濾過・無浸漬が基本。「引かない・足さない」造り。 |
| 一般的な捉え方 | 「安心・安全の証」。公的認証によりクリーンな品質が保証された、有機ワインのスタンダード。 | 「宇宙・自然との調和」。厳格な農法・醸造規定を持つ、低介入(ロー・インターベンション)。 | 「生産者の思想」が最優先。ブドウ本来の生命力をボトルに閉じ込めたもの。 |
IIDAWINEでは、単に流行としての言葉に頼るのではなく、造り手がそれぞれの土地やブドウに対してどのような「意志」を持って向き合っているか、そのプロセスと品質を何よりも大切にしたいと考えています。
わたしたちが責任を持ってお客様にワインをご紹介するために。
厳密な定義のない「ナチュラルワイン(自然派ワイン)」という言葉を避け、独自の4つの柱に基づき、3つのカテゴリーに分類を設定いたしました。
IIDAWINE 4つの柱
IIDAWINE 3つのカテゴリー

ビオディナミ、オーガニック、ナチュラルなアプローチ。
この3つの柱を軸に、IIDAWINEが選ぶナチュラルなワインの生産者を5つご紹介いたします。
| カテゴリ | Biodynamic | Biodynamic | Organic | Approach | Approach | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| ワイナリー | フリッチ | マエスタ デッラ フォルミカ | ドメーヌ ド ロシャンボー | フィロキセラ イ シア | シェルター | |
| 栽培 | 有機栽培 | ビオロジック | ビオロジック | ビオロジック | ビオロジック/サステイナブル | ビオロジック |
| 認証の有無 | 認証あり | 認証あり | 認証あり | 認証なし | 認証なし | |
| ビオディナミ | ビオディナミ | ビオディナミ | - | - | - | |
| 認証の有無 | 認証あり | 認証なし | - | - | - | |
| 収穫 | 全て手摘み | 15kgのボックスにて手摘み | 全て手摘み | 全て手摘み | 全て手摘み | |
| 醸造 | 酵母 | 天然酵母 | 天然酵母/マロラクティック発酵 | 天然酵母/補糖なし | 天然酵母/マロラクティック発酵/シュールリー熟成 | 天然酵母が基本(ヴィンテージの条件によっては天然酵母に加えて培養酵母を併用する場合あり) |
| 添加物(SO2) | SO2は必要最低限/浸漬中は不使用 | SO2は必要最低限 | SO2は必要最低限(必要に応じ、収穫や醸造の段階でも使う場合あり) | SO2は極少量 | 瓶詰め前に1回のみSO2添加 | |
| フィルター(濁り具合) | 一部アイテムは清澄剤使用(フレッシュな状態で早く瓶詰するため) | 無清澄・無濾過 | 珪藻土 | 無清澄・無濾過 | 重力による清澄・無濾過(一部アイテムは濾過あり) | |
| 思想 | 味わい | ピュアな果実味。非常にフルーティーで明るく、親しみやすい味わいが最大の魅力。 | 多様な植物や古木が共生する「本来の自然」を感じさせるスタイル。素材そのものの旨味。 | ピュアで軽やか、ストレスのない質感。滋味深い旨味。 | ナチュラル感を最大限に保ち、キレイな酸のエレガントなスタイル。エリアのアイデンティティが伝わる、ブドウ本来の個性をストレートに表現したワイン。 | 徹底した低収量による「土地の個性」の追求。繊細で透明感のあるスタイル。 |
| その他 | 古い畑の修復(北イタリアとフランス由来の品種)、リースリングの栽培。トラクターまたは機械は不使用。全て手作業、草はブラシカッター、トリートメントはショルダータイプの噴霧器。 | バレンシア土着品種を復活。自然との調和を最大限に尊重し、ワイン造りも極力自然に任せ、できる限り手を加えない。 | グラヴィティシステムを導入。ブドウ本来のポテンシャルを重視し、介入を最小限にする「gentle vinification(穏やかな醸造)」を哲学としている。 |
デメテール等の公的認証、またはそれに準ずる農法を実践している生産者。
化学的な農薬・肥料・除草剤を一切使用しない有機栽培を実践。
醸造は通常のワインよりSO₂添加量を最小限もしくは無添加で造られ、天体の運行(月や惑星)のリズムに合わせて作業を行う農法。
フリッチ(FRITSCH)
フリッチは、ウィーンから60kmほど西のブドウ栽培地域、ニーダーエスタライヒ州のヴァーグラムに位置し、この地域のワイン造りを牽引するトップ生産者です。
現当主カール・フリッチ(Karl Fritsch)のもと、高品質でテロワールを表現したワインを造り出しています。フリッチのワインは、オーストリアの伝統的な品種とビオディナミの現代的な手法が融合した、クリーンでテロワールを感じられる高品質なワインです。所有する25haのブドウ畑全体の28%も占めて、国内外で高い評価を得ています。
【栽培】自然環境との調和
2006年頃からビオディナミ農法(デメテール認証など)に転換し、自然環境との調和を最も重視しています。
カール・フリッチは、オーストリアのトップ生産者で組織される「respekt BIODYN」のメンバーであり、化学肥料、除草剤、殺虫剤を一切使用しません。
土壌の健康を第一に考え、自家製のコンポスト(堆肥)を使用し、多様な植物や動物が共生する生態系を形成しています。
ヴァグラム地方特有の「レス(黄土)」と「石灰質」が混ざる25haの畑で、グリューナー・ヴェルトリーナー、リースリング、ローター・ヴェルトリーナーなどを栽培しています。
【醸造】人的介入を最小限に
ブドウは手摘みで収穫され、非常に丁寧に選別されます。
セラーでは、原則として天然酵母(野生酵母)のみを使用して発酵を行います。人為的な介入を最小限に抑え、ステンレスタンクや大樽で澱(おり)と共に長期間熟成させ、アロマを引き出します。
【思想】持続可能な農業
ヴァーグラムの地質(石灰質・レス)と気候をワインに正確にテロワールとして表現することを目指し、
次世代のために、土地をより良い状態で引き継ぐ「持続可能な農業」を実践しています。
誇張された味ではなく、クリーンでエレガント、かつ食事に寄り添う「生きたワイン」を造ることを重視、生産者自身が「畑とセラーにいる」ことを好み、流行に左右されず、自分たちが信じる最高品質を追求しています。
【品質】トップクラスの評価
フリッチは、ヴァグラムで最も高く評価されるワイナリーの1つであり、特にグリューナー・ヴェルトリーナーは96ポイント(ファルスタッフ誌など)を獲得するなど、トップクラスの評価を得ています。
エレガントさとミネラル感: ワインは強靭なミネラル感とイキイキとした酸、そして精細な果実味のバランスが特徴です。
エコセール等の公的認証を取得している生産者。
飯田が定義する「ナチュラルなワイン」の土台となる、非常に誠実なオーガニックの造り手です。
ドメーヌ・ド・ロシャンボー(Domaine de Rochambeau)
フランス・ロワール地方のアンジュー地区に位置する、1985年創業の家族経営ドメーヌです。当主のフォレスト家は早くから環境への配慮を始め、2001年にはオーガニック認証を取得しました。
【栽培:健全な土壌とブドウ】
彼らの畑では化学農薬・化学肥料を一切排除し、土壌の多様性を守る農法を徹底しています。
収穫は、ブドウを理想的な状態でワイナリーまで運ぶため、すべて手摘みで行い、小さな収穫カゴを使用します。オーガニック認証(認証機関:ビューローベリタス)を取得しており、まさに「健全な土壌とブドウ」を体現する、オーガニックの王道とも言える存在です。
【醸造:天然酵母と低介入】
「良いワインは畑で生まれる」という哲学のもと、醸造においても不必要な介入を避け、自然な造りを目指しています。
●天然酵母での発酵: 補糖は行わず、天然酵母の力でじっくりと発酵させます。
●最小限のSO₂添加: 亜硫酸の添加量は、認証規定よりもさらに少なく、品質維持に必要な「最小限」の範囲に留めています。
●緩やかな濾過: 旨みを残すため、珪藻土を用いた極めて緩やかな濾過に限定しています。
【思想と品質:テロワールの表現】
彼らの思想は「テロワールを歪めずに伝えること」です。
丁寧に育てられたブドウのエキスが凝縮されており、素朴な旨みとナチュラルな質感がダイレクトに伝わります。
認証の有無を問わず、IIDAWINEが認める自然なアプローチの造り手。
オーガニック認証こそ取得していませんが、その栽培・醸造哲学は極めてナチュラルであり、飯田が自信を持っておすすめする「クリーンで健全なナチュラルなワイン」の造り手をご紹介します。
フィロキセラ イ シア(FIL・LOXERA Y CIA)
スペイン・バレンシア南西部の村、フォンタナルス・デルス・アルフォリンス。この地に魅了された3人のプロフェッショナルが2011年に設立したのが「フィロキセラ・イ・シア」です。流行に左右されず、自分たちが理想とする「真のワイン」を追求する彼らの姿勢は、まさに当社が掲げるナチュラルなワイン(Approach)の理念を体現しています。
【栽培】伝統品種の復活と自然への敬意
彼らが最も大切にしているのは、この土地のアイデンティティです。
失われゆく個性の継承: 絶滅の危機にあった「ベルディル」や「アルコ」といったバレンシアの土着品種をマサル・セレクションによって守り育てています。
持続可能な農法: 認証の有無にこだわらず、自然との調和を最優先したビオロジックな栽培を実践。標高700mの軽快な土壌から、15~30hl/haという極めて低い収量で、生命力に満ちた高品質なブドウを収穫しています。
【醸造】低介入が生み出す「本来の美しさ」
セラーでの仕事は、ブドウが持つポテンシャルを「邪魔しない」ことに徹しています。
野生酵母による発酵: 天然酵母での発酵、マロラクティック発酵、そしてシュールリー熟成を経て、ワインに奥行きを与えます。
純粋な表現: 濾過や清澄を行わず、SO₂の使用も極限まで抑えることで、ブドウ本来のピュアな風味をボトルに閉じ込めます。
【思想・品質】テロワールを映し出すクリーンなエレガンス
「できる限り手を加えない」という彼らの思想は、ワインの味わいに如実に現れています。
エレガントなスタイル: ナチュラルな質感を最大限に保ちながら、雑味のない「きれいな酸」が際立つ、非常にクリーンで洗練された仕上がりです。
エリアのアイデンティティ: 樽香をあえて抑え、石や砂を含む土壌の個性と、珍しい土着品種のキャラクターをストレートに表現しています。
フィロキセラ・イ・シアはバレンシアの土着品種から、この地のテロワールをそのまま感じられる、クリーンで生命力あふれる美味しいワインを生み出しています。一口飲めば、彼らの情熱を感じていただけることでしょう。
オーガニックやナチュラルワインについて、こちらのコラムでも詳しく解説しています。ご興味のある方は是非お読みください。
「ワインを巡るよもやま話」第5回
クリーンな有機栽培ワインと『自然派』の濁ったワイン?
https://www.iidawine.com/htm/winery/25wine_columu_5.html