ワイナリー訪問記
〜オーガニック栽培の今〜
 ブルゴーニュ


2019年のヨーロッパは雹害、霜害に加えて猛暑が各地に深刻な被害をもたらしています。ブルゴーニュも例外ではなく、この夏、ディジョンでも40℃を越える暑さが一週間も続くことがたびたびあり、ダメージを受けた畑も少なくありません。しかしこのような異常気象の中でも、生産者達は日夜頑張っています。

フランス在住の現地スタッフCがそんな生産者達を訪問し、今回はオーガニック栽培の視点でレポートを送ってくれました。
それぞれのドメーヌがどのようにアプローチしているのかを通して、ブルゴーニュにおけるオーガニック栽培の今にフォーカスいたします。
レポートするのは以下のワイナリーです。

@ヴリニョ(シャブリ)

Aジョルジュ リニエ(モレ・サン・ドニ)

Bジャン クロード バシュレ(サン・トーバン)

Cロブレ モノ(ブリニー・レ・ボーヌ)

ブルゴーニュ地図 
第二次世界大戦後に始まった農産物の大量生産の反動として60年代に現れたオーガニック栽培は、長い間マイナーな存在に過ぎませんでした。しかし、近年の健康志向や環境保全のムーブメントに伴い世界中でオーガニックが注目され、毎年その市場規模が拡大しつつあります。2018年時点では、フランスのブドウ栽培面積の12%もの畑がオーガニック認証もしくは転換中となっています。

ただし、オーガニック栽培はどこでも行えるわけではありません。

ブルゴーニュ自体はオーガニック栽培に向いた産地とは言えませんが、ワイン造りの歴史も長く、小さな家族経営のドメーヌが多いこともあって、現在はトップ生産者の多くがオーガニックやビオディナミ農法による栽培を実践しています。
それぞれの生産者には様々な考え方があり、アプローチ方法も大きく異なります。(C)

VRIGNAUD/ヴリニョ

ヴリニョは、グランクリュ畑の北東に位置するフォントネ・プレ・シャブリ村で5世代続くブドウ栽培家の家系です。1955年に入手した1級畑に始まり、現在は29haの畑を所有するに至っています。現当主ギヨーム・ヴリニョは、1999年に21歳の若さでドメーヌに参画、2005年にはシャブリコンクールにおいて最年少で金賞を受賞するなど早くからその実力と才能が認められました。
2009年からオーガニック栽培を実践しており、区画毎に丁寧な醸造を行う事で最大限にテロワールを表現するべく取り組んでいます。

ギヨームが追求するのは”アロマ”と”酸とまろやかさのバランス”。アロマを損なわないよう人的介入は必要最低限とし、それぞれのテロワールの個性を生かしたワイン造りを行っています

ヴリニョはこれまでオーガニック認証の栽培を行ってきましたが、2016年に厳しい気象条件の日々が相次いだため、ギリギリまで努力を続けるも、一回だけ農薬を使うという決断をしました。病害のリスクがあまりにも高過ぎると、有機農法では対応できなくなるため、認証をとるか収穫をとるか、という選択を避けられないヴィンテージもあります。

例えば、フランス中で病害による深刻な被害が発生した2018年には、気候に恵まれているラングドック・ルーシヨンでさえ認証を諦めた生産者が少なくありませんでした。一時的に認証を失ったヴリニョですが、2019年に認証を再取得する予定です。
ヴリニョ
オーガニック転換の期間は3年間となっていますが、温暖化で2018年の様なヴィンテージが増えていく中、少量の農薬しか使用していないのにもかかわらず、再取得に3年間もかかるというルールに不満を持っている生産者は少なくはありません。しかも、オーガニック・ワインの需要が年々増加しており、生産が追いついていません。 畑
こうした状況の中、南仏を中心に新しい認証も現れてきました。それはCAB(Convertion AB)という、オーガニック転換中の認証です。(C)
※CAB:オキシタニ地方(ラングドックルーション&ミディピレネー)の生産者を代表する団体SudVinBioが立ち上げた認証。
CAB

GEORGES LIGNIER/ジョルジュ リニエ

モレ・サン・ドニで数世代に渡ってワイン造りを続けているリニエ家。ジョルジュ リニエは従兄弟のユベール リニエとともに産地を代表する生産者のひとつです。本拠地であるモレ・サン・ドニを中心にマルサネ、ジュヴレ・シャンベルタン、シャンボール・ミュジニィなど17のアペラシオンに渡り16ha畑を所有しています。

現在ドメーヌを運営しているのは、ジョルジュの甥ブノワ・ステリで、2002年にドメーヌに参加、2008年から単独で栽培と醸造を行っており、クラシカルな趣を残したエレガントなワイン造りで評価を得ています。

目指すスタイルは、若いうちから飲みやすく、かつ10年経っても若さを保つワインで、ピュアな果実感にこだわっています。先代ジョルジュの伝統的な手法を尊重しながらも、ブドウの持つ潜在的な表現力を、より自然に引き出して語らせるようなワイン造りを行います。
ジョルジュ リニエはオーガニックに近い栽培を行っていますが、必要に応じて最低限農薬を使用するという選択肢を残すため、リュットレゾネを採用しています。ただし、使うとしても農薬の使用は開花までに限定します。開花から収穫までの約100日間はオーガニック栽培を行うことで、開花前に使った農薬が残っていない状態で収穫出来、ブドウ(ワイン)には影響をおよぼすことはないそうです。

ジョルジュ・リニエの畑は1952〜1956年の間に植えられた古木で、全部がマサル・セレクション(株の選別作業)によるものです。昔ながらのマサル・セレクションから、色の薄いエレガントなワインが生まれ、リニエのスタイルに大きく貢献するというメリットがあると同時に、近代のクローンに比べて病気にかかりにくい、丈夫なクローンでもあります。
ジョルジュ リニエ
また、リニエでは、2012年から除草剤を使用していません。ブドウ樹は、雑草との競争の影響で根がさらに深くまで水分を探しにいき、結果的に樹の自力が高まるだけでなく自然に収量が抑えられ、よりミネラリーなワインが生まれます。

2013年のように収穫のタイミングが難しかったヴィンテージでも、周りの生産者に比べて1週間ほど収穫を遅らせ、低収量かつ健全で完熟したブドウが収穫出来ました。逆に、2015年のような温暖なヴィンテージでは収穫を早め、完熟しつつもミネラル感からくるフレッシュで非常にエレガントなワインが出来ました。(C)
クロ・デ・ゾルム

JEAN-CLAUDE BACHELET ET FILS/ジャン クロード バシュレ

シャサーニュ・モンラッシェとピュリニィ・モンラッシェに隣接する丘陵地サン・トーバンに本拠地を置くジャン クロード バシュレ エ フィスは、1648年からの歴史を誇る生産者です。現在ドメーヌを運営するのはブノワとジャン・バティストの兄弟で、父ジャン・クロードのあとを引継ぎ2000年より本格的にワイン造りに従事、現在は合計10haの自社畑を所有し年間5万本のワインを生産しています。ブドウ栽培ではオーガニック(2015年からビオディナミ)を実践し、醸造も出来る限り自然の状態で手を加えない方法を心がけています。

ドメーヌが目指すのは、自然に優しくテロワールの特徴をよく表した本格的なブルゴーニュワイン。熟成を重ねるほどにエレガントさが引き出されるスタイルです。ランブロワジー、アルページュ、ピエール・ガニェール等、フランス国内の三ツ星レストランの大半でオンリストされるなど、産地を代表しうる将来有望な生産者です。
ジャン クロード バシュレは、オーガニックにこだわらず、昔から農薬、化学肥料や除草剤などを極力使用しない、環境に配慮した栽培、すなわちリュットレゾネを行ってきた生産者です。小さな区画を多く所有し、区画毎に醸造を行っており、2012年に実験的に一部の区画でオーガニックとビオディナミ農法への転換を試みました。そして、3年間に渡ってそれぞれの農法がもたらす結果を実感した上で、2015年から全ての畑をビオディナミに切り替えました。
自然を大切にする気持ちはリュットレゾネの時と同様ですが、何よりも味わいがレベルアップした事が転換の決め手でした。
ビオディナミに切り替える事によって、複雑さと熟成ポテンシャルがここまで変わるとは本人も思っていませんでした。病気から樹を守るだけではなくて、樹の自力を高めるビオディナミ農法を導入してからテロワールの表現力も高まったのです。

ジャン クロード バシュレはそのテロワールの表現を第一優先にしているので、畑仕事に力を惜しまず、逆に醸造の段階では出来るだけ手を加えない様にしています。酵母もテロワールの一部として捉えているので、テロワールを最大限に表現するには天然酵母が必要不可欠と考えます。人工酵母を使う事によって、どのキュヴェも均質的になりテロワールの特徴が弱まるという考え方です。
ジャン クロード バシュレ エ フィス

酵母に関する考え方は生産者によって様々で、ヴォーヌ・ロマネに本拠地を置くミッシェル グロなどはその真逆の発想です。
ミッシェルは酵母をテロワールの一部というより、醸造ツールの一つとして捉えています。ある研究によると、数多くの酵母が存在するとしても、ワインに特徴を与えるドメーヌ特有の酵母の種類は大きく変わる事はないということです。

そうなると、天然酵母のメリットが特にない反面、より安定してどのキュヴェにも同じスタイルを与える人工酵母を使った方が、リスクも小さくテロワールの特徴が明確になるという考え方です。(C)
ワイナリー外観

ROBLET MONNOT/ロブレ モノ

ロブレ家がブドウ栽培に着手したのは1865年、ボーヌの南側に位置するブルニー・レ・ボーヌの畑からです。ドメーヌの現当主パスカル・ロブレは4代目で、本拠地のヴォルネイを中心に、ポマール、オーセイ・デュレスに12haのブドウ畑を所有しています。 彼の祖父の代から、除草剤等の化学農薬を一切使用せず、月の運行を栽培と醸造に取り入れた農法(今でいうビオディナミ)を実践しており、現在も、土壌の持つ潜在能力を最大限に引き出すべく、この農法は続けられています。

ロブレ モノのワインは、輝きのある濃い目のルビー色、凝縮された果実と香辛料にハーブ等の複雑な風味が絡み合い、スムースなタンニン、ミネラル、そして酸がしっかりと全体を支え調和を奏でています。ピュアな果実味とシルキーなタンニン、そしてうまみののった豊かな味わいが印象的です。
ロブレ モノは昔から自然派にこだわっている造り手で、出来るだけ自然に優しい造りと自然な味わいのワインを求めて90年代からビオディナミを実施しています。ビオディナミは当主パスカル自身のフィロソフィーであり、決して前面に押し出してアピールしようとはしません。
しかしながら、実際は2016年ヴィンテージからオーガニック認証を取得しています。
オーガニックを訴えながら本当にオーガニックではない生産者もいる中、自分が言っているだけではなく、本格的な有機栽培を行っていると証明できるようにオーガニック認証を取得したのです。彼自身にとってはオーガニック栽培は認証が目的ではなく当たり前の農法、自分のワインを素直に見て欲しいということでラベルにも認証を記載しないのです。
ロブレ モノは醸造の面でもピュアさを求めて、出来るだけ自然に近い造りを行っています。天然酵母を使って、赤の場合は清澄も濾過も行っていません。

2015年からSO2の使用量を減らす醸造にも取り組んでいます。SO2はワインを守ると共にアロマを引き立て余韻を長くシャープにするメリットもありますが、ある程度化粧の様なものでもあり、果実感の豊かさを押さえてワインを堅くするデメリットもあります。パスカルは、SO2の使用量を減らす事によってより自然な果実感が得られると考えます。衛生や温度管理を意識しながらワインを空気に触れさせずに丁寧な醸造を行えば、瓶詰めまではSO2の必要がなくなります。
技術の進化もあって、近年無添加の醸造にチャレンジしている生産者が増えています。

例えば、ヴォーヌ・ロマネのグロF&SもSO2の使用量を最低限に抑える発想ですが、ルールを堅く決めず、ヴィンテージに応じて調整します。2016年にはワインのポテンシャルを確認した上で、醸造に限らず瓶詰め時を使用しない、完全にSO2無添加のワイン造りに初めて挑戦しました。2017年ヴィンテージも引き続き無添加のまま瓶詰めしましたが、2018年ヴィンテージはどうするか、まだ検討中です。
ロブレ モノの場合は、瓶詰めの際にのみSO2を少量加えています。
また、ピュアな果実感を求めて、2018年から1年樽を増やし、新樽の比率を出来るだけ0%に持っていこうとしています。樽熟のメリットをキープしながら、新樽由来のアロマや味わいを出来るだけ無くすのが目的です。樽の産地、メーカーや焼き方にかなりこだわっているので、理想通りの1年樽がなかなか手に入らず、いきなり新樽0%は難しいですが、本人の新しいチャレンジとなっています。
ロブレ モノ
ビオディナミの認証に関しても伺うと、一生取得するつもりがないと熱く語っていました。
認証取得には、シリカの使用が条件のひとつになっているとのこと。
シリカ(二酸化ケイ素)はビオディナミの調合剤プレパラシオン501として知られ、ブドウ樹の光合成促進の効果があるとされていますが、パスカル自身はこのシリカの必要性を感じていないのです。
またシリカを購入さえすれば認証取得は可能ですが、そうした基準が納得できず、敢えて申請するつもりはないということでした。
畑
どの生産者もテロワールとその自然環境を大事にして、自然に優しい栽培に向かっていますが、方向性が一緒であってもフィロソフィーや意見の違いのあり、それぞれの生産者は自身の道を進んでいます。その生産者の数だけ、ブドウ栽培における課題に触れました。

また、オーガニック栽培を取り巻く環境として昨今大きく取り上げられていることに、EUによる銅の使用量の規制があります。
銅は使い続けることで土壌の変質を引き起こすため年々規制が厳しくなってきています。これまでブドウの病害対策としてビオロジックでも使用が認められているボルドー液も、原料の銅のために使用が制限されることで、ビオロジックによる栽培は益々難しくなってきています。
こうした環境の中、ラングドック・ルーシヨンでは、メルツリング(セイヴァル・ブランとリースリング×ピノ・グリの交配)やムスカリス(ミュスカ・ブランとソラリスの交配)など、病害に抵抗力のあるハイブリッド品種の栽培も積極的に行われています。
しかし、ピノノワール種とシャルドネ種にこだわっているブルゴーニュでは、こうしたハイブリット品種が浸透するのは難しいと思われます。 ブルゴーニュにおけるオーガニック栽培は今後とも発展していくと予想されますが、同時に独自の進化を遂げていくということも考えられるでしょう。(C)

今回ご紹介したワイナリーの詳細は、こちらからご覧下さい。

VRIGNAUD/ヴリニョ

GEORGES LIGNIER/ジョルジュ リニエ

JEAN-CLAUDE BACHELET ET FILS/ジャン クロード バシュレ

ROBLET MONNOT/ロブ レモノ

飯田